自宅を売却したときに売却益が生じた場合、譲渡所得税が課税されます。譲渡益の計算では、売却金額から取得費(建物は減価償却後)を引くことができるため、譲渡益が生じることはそれほど多くないのではと思われるかもしれません。

 実務上では、代々相続してきた自宅を売却した場合は、その取得費が昭和の前半で証明できない、証明できても少額であることが多いです。このような場合は、概算取得費といって、売却金額×5%を取得費とみなして引くことができます。ただ引くことができるのは5%にすぎず、95%は利益になります。

 このような場合に居住用財産の3,000万円特別控除が使えれば譲渡益から3,000万円を引くことができます。

 しかし、ここでよくあるケースが、自宅の名義が父親になっています。父親名義の不動産に子供が住んであり、父親は別の自宅に住んでいるという場合です。
 
 この状態で子が住んでいる自宅を売却した場合、一見、居住用で使っているため居住用財産3,000万円特別控除の適用が受けられそうですが、所有者(父親)が居住用で使っていないため、たとえ子が住んでいるとしても3,000万円特別控除の適用は受けられません。

父親名義の自宅に住んでいますが、このまま売却したのでは居住用財産の3,000万円特別控除の適用は受けられないとのことですが、何か節税できる方法はありませんか。
譲渡所得税の特例の適用が可能な「居住用財産」とは、その家屋の所有者が生活の拠点として利用している家屋をいい、一時的な利用を目的とする家屋は該当しません。また、居住用財産の特例の適用を受けるためのみの目的で入居したと認められる家屋や仮住まい、別荘のように趣味や保養を目的とするものも対象になりません。

 逆に言えば、今まで生活の本拠として居住用で使用していたものであれば、贈与で名義変更したものであっても居住用財産に該当するということです。いままで生活の本拠でないのに売却の直前で住民票を移転させたりしたものは当然にダメです。

 居住用財産の特例には「軽減税率」という制度があります。所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡した場合にのみ適用がありますが、6,000万円以下の譲渡益であれば所得税10%(復興特別所得税を除く)、住民税4%です。一般的な長期譲渡であれば所得税15%(復興特別所得税を除く)、住民税5%ですので、6%軽減されています。

 居住用財産の特例が適用できる場合と適用できない場合では、税金にかなりの差がでます。
 <例>売却価額 4,000万円、取得費 200万円、譲渡費用 100万円、譲渡益 3,700万円の場合
  ・3,000万円特別控除、軽減税率を適用した場合
    (3,700万円-3,000万円)×14%=98万円
  ・特例が適用できない場合
    3,700万円×20%=740万円
 
 なお、土地を贈与で子の名義にする場合、贈与税がかかります。相続時精算課税を適用すれば贈与財産から2,500万円控除できるので贈与税の負担が軽減できます。

 今回の譲渡所得の申告は、贈与で名義を変更した上で売却していますので、居住用財産の3,000万円特別控除、軽減税率を適用することができました。