今回は、賃貸不動産を購入した方の消費税還付の事例です。

 完全住居の賃貸不動産の消費税還付は、単純に課税事業者選択届出書を提出しただけでは成功しなくなりました。しかし、事務所兼住居の賃貸不動産の場合は、従来どおり課税事業者選択届出書を提出することで消費税還付が可能です。消費税還付のスキームが今回のポイントではありませんので割愛します。

 相談者の方が購入した賃貸不動産は5階建てのRCで1、2階が事務所・店舗、3から5階が住居です。購入代価のうち建物部分は2億1,600万円(うち消費税1,600万円)です。

建物に係る消費税1,600万円は、基本的には課税売上割合を乗じた金額が還付されます。事務所・店舗の賃料が2,000万円、住居の賃料が1,500万円の場合、課税売上割合は2,000万円÷(2,000万円+1,500万円)=57%となり、1,600万円×57%=912万円の消費税が還付されます。

 このように課税売上割合が高いほど消費税の還付額も増えます。したがって、事務所・店舗が満室の場合は、特に問題は生じません。

 しかし、今回購入した不動産は、1、2階の事務所・店舗部分がすべて空きのものでした。このままでは事務所・店舗の賃料はゼロですので、課税売上割合もゼロとなってしまい、消費税の還付が受けられません。

事務所・店舗が空室で賃料が入ってきません。課税売上割合がゼロとなり消費税還付はできませんか。
事務所・店舗が空室の場合は、賃料ベースの課税売上割合ではなく、「課税売上割合に準ずる割合」を活用しましょう。

 この課税売上割合に準ずる割合ですが、実務上使用するケースのは、ある事業年度でたまたま土地を売却したため、多額の非課税売上(土地の売却代金)が生じ、その事業年度を課税売上割合を低下させてしまうときに、税務署に「課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出し、低下した課税売上割合を使用しなくても済むようにして、消費税の納税額を減らすときに使用します。
 
 今回の建物の購入に係る消費税は、課税売上割合という事務所・店舗と住居の年間の受取り賃料に比例して生じるものではなく、事務所・店舗と住居の床面積の比に比例すると考える方が合理的であるため、税務署と交渉し、床面積の比による課税売上割合に準ずる割合の承認を受けることができました。横浜の中心の税務署にもかかわらず、課税売上割合に準ずる割合の承認はこれまで行ったことがないということで非常に時間がかかりました。

 しかし、承認を受けることができましたので、事務所・店舗が空室であり、課税売上割合がゼロであっても1、2階部分の床面積に応じた消費税640万円(1,600万円×2/5)の還付が受けられます。セオリーどおりに課税売上割合で計算したら消費税還付はゼロでしたので、非常に効果的な提案、対策でした。

 なお、課税売上割合に準ずる割合は、(1)税務署の承認が必要であること、(2)適用を受けようとする課税期間の末日までに税務署の承認を受けていることが必要です。承認までに1ヵ月はかかるため、ギリギリでは承認が間に合わない場合があるでしょう。