法定耐用年数経過済みの建物の相続税評価額は固定資産税評価額以外でも可能

財産評価基本通達では、建物の相続税評価額は「固定資産税評価額」とすると記載されています。
固定資産税評価額は、固定資産税を課税するための市町村が評価して付すものであり、その評価基準は、固定資産評価基準に規定されています。財産評価基本通達を知らない税理士はいませんが、固定資産評価基準を知っている税理士は少ないです。
建物の固定資産税評価額ですが、その特徴は、(1)固定資産税評価額は、建築費のおおよそ50~60%、(2)定額法償却、(3)残存価額を20%とする(つまり、減価償却は80%しかしないということ)点があります。
たとえば、1億円で建物を建築した場合、最初の固定資産税評価額は5,000万円、そしてこの5,000万円をベースに定額法償却していきますが、残存価額は1,000万円ですので、4,000万円の減価償却が終われば、そのあとは何十年経過しようが固定資産税評価額は1,000万円として残っています。

今回の問題は、法定耐用年数を経過した建物について、相続税評価額として20%残存価額の固定資産税評価額で申告しなければならないのか、実際の売却時価は年々減少していくのに20%残存価額での申告はおかしいのではないかという点です。

法定耐用年数を経過した建物について、相続税の「時価」は必ず固定資産税評価額の20%残存価額としなければならないのでしょうか。
財産評価基本通達は、相続税評価額を算出する一つの指針にすぎず、必ずこれによらなければならないということではありません。

確かに財産評価基本通達では建物の相続税評価額は「固定資産税評価額」としており、実務上も評価証明書を市役所から取得して、その金額により評価するのが大半です。

上記にも記載しましたが、固定資産税評価額は建築費のおおむね50%から60%水準とスタート時点でかなり圧縮されているので、新築当初は固定資産税評価額で評価しても何ら不利な点はありません。また、固定資産税評価額は定額法償却となりますが、これもスタートの固定資産税評価額が相当圧縮された水準からのスタートになるため、定額法償却であっても不利な点はありません。

しかし、固定資産税評価額の問題点は、法定耐用年数をすべて経過した建物でも20%残存価額が残ってしまう点です。5,000万円の固定資産税評価額でスタートとした場合、法定耐用年数を経過しても1,000万円の評価額が残ってしまうということになります。固定資産税の課税目的としては20%残存価額を残す合理的理由がありますが、相続税評価額は、固定資産税の課税目的に縛られることはありませんので、20%残存価額で評価するのは不合理です。

この場合に使うことができるのが、固定資産税評価額が付されていない建物の評価の仕方です。この場合、その建物の建築費から経過年数に応ずる償却費相当額(定率法)を控除した価額の70%に相当する金額とすることが認められています。

  建築費から償却を開始するため、耐用年数の大半が経過しなければ固定資産税評価額よりも相当高い評価額になってしまいますが、しかし、(1)定率法での償却が認められること、(2)固定資産税評価額と違い20%残存価額で償却で打ち切られることがないこと、が大きなメリットです。先ほどの例であれば、1,000万円の評価額で相続税申告することはありません。