売買契約後決済前に相続が開始した場合の譲渡所得申告の選択

不動産の売買契約を締結して手付金を受け取ったが、不動産の引き渡し、所有権移転登記が未了で、残代金も受け取っていない状態で売主が死亡した場合、相続税の課税財産となるのは「不動産」なのか「代金債権(未収入金)」なのかが問題となります。所有権移転登記が未了のため「不動産」としての相続財産となるのではと疑義がありますが、最高裁判例で相続税の課税財産となるのは「代金債権(未収入金)」であるとされました。相続税申告では、このように「不動産」か「代金債権(未収入金)」か選択できるわけではありません。

  しかし、不動産の譲渡所得は、引渡日と契約日のいずれかを選択することができます。
契約日を選択した場合は、被相続人の準確定申告で譲渡所得として申告します。
引渡日を選択した場合は、相続人の確定申告で譲渡所得として申告します。

被相続人(甲)は、平成24年4月に自宅の売買契約を締結しました。残代金の決済は同年7月でしたが、同年6月に死亡しました。売買契約は、相続人(乙)が引き継ぎ、7月に残代金を受け取りました。
この場合、譲渡所得の申告は、甲乙のいずれで申告した方が有利でしょうか。
なお、乙は、この自宅には居住していません。
甲の譲渡所得として申告する場合
(1)居住用財産の3,000万円控除・軽減税率
甲の居住用財産であるため、適用可能 (2)住民税
翌年1月1日に生存していないため、住民税は課税されません。

(3)<相続税>債務控除
譲渡所得税が債務控除の対象となります。

(4)<譲渡所得>相続税の取得費加算の特例
取得した相続財産を譲渡したわけではないため、取得費加算特例の適用は受けられません。

乙の譲渡所得として申告する場合
(1)居住用財産の3,000万円控除・軽減税率
乙の居住用財産ではないため、適用不可

(2)住民税
翌年1月1日に乙は生存しているため、住民税が課税されます。

(3)<相続税>債務控除
譲渡所得税は債務控除の対象になりません。

(4)<譲渡所得>相続税の取得費加算の特例
取得費加算特例の適用が可能

このように誰の譲渡所得として申告するかは、譲渡所得税、相続税の金額に大きな影響を与えます!