借地権者からの借地権の買戻し

土地を第三者に建物所有を目的として賃貸する場合、建物所有者は借地権を取得し、土地所有者は底地の権利を持つ形になります。底地を所有する土地所有者は、借地権者から地代の支払を受けますが、固定資産税は土地所有者が納税しなければならないため、利回りで考えると相当低い水準です。相当以前に賃貸している場合には地代の値上げ交渉も難しいです。また、土地所有者は自由に土地を使用することはできなくなります。

相続財産としては、土地所有者は、土地100%の評価額から借地権の評価額を控除した額が底地の評価として相続財産に含まれます。借地権の評価額は、借地権割合というものが国税庁で決められており、路線価を見れば分かるようになっています。たとえば、土地100%の評価額が5,000万円、借地権割合が60%の場合、底地の評価額は、5,000万円×(1-60%)=2,000万円となります。

路線価は、通常の売買価額(公示価格)のおおむね80%水準で設定されています。先ほどの例では、5,000万円÷80%=6,250万円が通常の売買価額となります。このように相続税評価額は売買価額(公示価格)より低くなります。しかし、底地は、2,000万円÷80%=2,500万円で売買できるかというとできません。なぜなら底地を持っていても土地を自由に使用できないためです。底地の売買価額は、相続税評価額から20~30%ディスカウントした額になるケースが多いです。相続税評価額以上で売買できることはありません。そのため、相続税対策として生前に底地を処分(借地権者に売却)することもあります。ただ、この場合、土地所有者から底地を買ってくれと切り出すわけですので、買主は相当強気で値切ってきます。

今回の事例は、一般的なケースの逆で、借地権者から建物付きで土地所有者に買い取ってほしいと相談されたケースです。
土地所有者が買主側ですので、強気に値切って、借地権付き建物の売買金額は100万円で合意できました。
土地所有者:父(65歳)
借地権付建物の相続税評価額:1,200万円
底地の相続税評価額:800万円

この場合、土地所有者が買主となって購入すればよいでしょうか。

このケースでは誰を買主とするかが税理士の腕の見せ所です。土地所有者のお父様を買主にするのが一般的でしょう。お父様が購入すれば、お父様が土地を自由に使用収益できるようになりますが、お父様の相続財産は、現在の底地800万円から土地全体の2,000万円に上がります。これに対する将来の相続税の負担も増加します。
つまり、1,200万円の相続税評価額の財産を100万円で買うことができる、つまり、1,100万円分は無税で取得することができるわけですが、お父様が購入すると、お父様の相続税がこの無税分の1,100万円に対して課税されてしまいます。

そこで、ご子息(35歳)を買主とすることを提案しました。購入代金100万円はお父様からご子息が生前贈与を受け、贈与税は無税で資金贈与を受けます。この代金でご子息が購入します。これで借地権付建物の所有者はご子息名義になります。

この場合の税務上の問題点は2点あります。
(1)借地権者とご子息の間で贈与税の課税は生じないのか
第三者間の取引ですので、借地権者からご子息に贈与したという認識はないでしょうから、贈与税の課税は生じません。
(2)土地所有者のお父様とご子息の間での地代の授受、借地権贈与の認定課税の問題は生じないのか
親族間では地代の授受を行わず、無償で使用させる(使用貸借)ことが通例です。ご子息がお父様に地代の支払をしない場合、借地権贈与の認定課税が行われますが、認定課税を回避するには、「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を税務署に提出する必要があります。
 
「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」は、借地権の目的となっている土地(底地)をその借地権者以外の者が取得し、その土地の取得者と借地権者との間に地代の授受が行われないこととなる場合で、借地権者は借地権者としての地位を放棄していない旨を申し出る手続です。これを提出することにより借地権の認定課税を回避することができます。

今回は底地を取得するケースではなく、借地権を取得するケースですが、この「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を適宜修正して税務署に提出します。

これにより、1,100万円相当の財産を無税でご子息の財産にすることができます。