被相続人が死亡したことにより、被相続人の入居一時金の未償却分が相続人に返還された場合、その返還請求権は、本来の相続財産として相続税の課税対象となります。

今回の事例は、被相続人(甲)がその配偶者(乙)の介護付有料老人ホームの入居一時金を支払っており、甲が死亡したケースです。乙が死亡したわけではないため、入居一時金の未償却分の返還金は生じませんが、甲が支払った乙の入居一時金が相続財産に該当するかどうかが問題となります。

被相続人(甲)は、その配偶者(乙)が介護付有料老人ホームに入居することになり、乙を契約者として老人ホームの入居契約を締結し、入居一時金1,500万円を支払いました。入居後の月額利用料金20万円は甲が支払っています。
先日、甲が亡くなりましたが、乙は継続してその老人ホームに入居しています。このような場合、甲が支払った入居一時金に係る権利について、甲の相続財産として申告しなければならないのでしょうか。
甲が乙の入居に関して支払った入居一時金が贈与に該当するかどうかで取扱いが異なります。

所得税法第9条第1項第15号において「扶養義務を履行するために給付」された経済的利益は、所得税法上、非課税となります。また、相続税法第21条の3第1項第2号において「扶養義務者相互間において生活費に充てるために通常必要と認められるもの」に該当する利益の享受に対して、贈与税は非課税とされています。

つまり、甲が乙の入居一時金を負担した経済的利益が扶養義務を履行するためのものであり、生活費に充てるために通常必要と認められるものに該当するのであ相続税の課税れば、甲の対象には該当しません。
しかし、通常必要と認められるものを超えるものである場合には、その贈与による利益の額は贈与税の課税対象とされます。さらに相続開始前3年以内の贈与に該当するときは、甲の相続税申告において生前贈与加算の対象になります。

なお、有料老人ホームの入居一時金の負担に関して、(1)妻の介護付老人ホームの入居一時金の負担行為は、「その老人ホームは介護の目的を超えた華美な施設とはいえず、妻の介護生活を行うための必要最小限のものであるから贈与税は非課税」と判断した裁決事例および(2)住宅型老人ホームに入居するに当たり夫が負担した妻が支払うべき入居一時金の一部については、その入居一時金が極めて高額(1億3370万円)でその施設がプール、フィットネスルーム付きの豪華なもので社会通念上、日常生活に通常必要な費用であると認めることはできないこと並びに妻は介護状態にないことなどからその入居一時金は相続税法第21条の3第1項第2号に規定する生活に通常必要な費用の負担には該当しないと判断した裁決事例があります。

生活に通常必要な費用の負担に該当するかどうかは事実認定の問題となりますが、夫・妻の資産状況、収入状況、老人ホームの施設内容など総合的に勘案して判断することになります。