自宅を売却した場合の3000万円特別控除の適用をしないで確定申告をした方から更正の請求ができないかという相談がありました。

 今回の相談の事例は、妹夫婦の自宅と姉夫婦の自宅が隣接しており、妹夫婦の所有地を姉の旦那(義兄)に売却しています。妹夫婦は売却後、別の市内にある賃貸住宅に引越しをし、転居しました。妹夫婦は、転居後1年以内に海外で治療のため移住する計画があるため、住民票は移動させず、売却した自宅に残したままにしました。姉夫婦も今回購入した敷地の方が接道が良く、将来的には2棟を建て替える予定でいます。

 この事例におけるポイントは、3つです。
①義兄(親族)への売却が居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除の適用要件を満たすのか
②住民票を転出させていないことが居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除の適用要件に影響するのか
③更正の請求により、居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除を適用できるのか

 相談者の方は確定申告にあたり近隣の税理士に依頼され、居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除は適用できないという判断になり、確定申告をされました。譲渡所得税、住民税、国民健康保険料として数百万円の納付が必要となり、海外での治療代も相当かかることから、申告期限後になってから弊社に更正の請求で居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除を適用できないかと相談に来られました。

親族の自宅を売却した場合、居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除は適用できないのでしょうか
 居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除は、次に掲げる者に売却した場合は適用できません。
①その個人の配偶者、直系血族
②その個人の親族でその個人と生計を一にしているもの及びその個人の親族で家屋の譲渡がされた後その個人とその家屋に居住するもの
③その個人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの
④①から③に掲げる者及びその個人の使用人以外の者でその個人から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの及びその者の親族でその者と生計を一にしているもの
⑤その個人、その個人の①及び②に掲げる親族、その個人の使用人若しくはその使用人の親族でその使用人と生計を一にしているもの又はその個人に係る③及び④に掲げる者を判定の基礎となる株主等とした場合に同族会社該当する会社

 今回は、姉の旦那(義兄)に売却したとのことですので、①の直系血族でもなく、妹夫婦と別生計であるため②にも該当しません。したがって、居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除の適用除外とされる買主には該当しません。

住民票を転出していないことは、居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除の適用要件に影響するのでしょうか。
影響しません。住民票は、売却した自宅に居住していたことを証するために必要となるものであり、転居を証することを要求されている訳ではありません。

通常は、売却した後、住民票を転出するので、今回は住民票を転出しない理由を書面にし、確定申告書に添付すれば十分でしょう。

当初の確定申告で居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除を適用しなかった場合、その後、更正の請求で救済されないのでしょうか。
 当初の確定申告で居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除を適用しないで申告した後、更正の請求でその適用を受けたいとすることはできません。

 また、居住用財産の3000万円特別控除の記載がない確定申告書を提出した場合でも、その記載がなかつたことについて「やむを得ない事情」があるときは、これを記載した書類等を提出することで、特別控除の適用を受けることができるとされています(措置法35条3項)。 問題となるのが、「やむを得ない事情」に該当するかです。「やむを得ない事情」とは、天災その他本人の責めに帰すことができない客観的事情があって、居住用財産の譲渡所得の特別控除の制度趣旨に照らし、納税者に対してその適用を拒否することが不当または酷である場合をいうとされています。

 過去には、東京高裁平成22年7月15日判決で、同一建物に居住しその敷地を共有する者の間で、土地建物を分割し、一方が分割取得した建物部分を取り壊し、その敷地部分を第三者に譲渡した場合において、更正の請求を認めた判例もあります。

 しかし、今回の相談の件は、東京高裁の事例のように難解な事例ではなく、「やむを得ない事情」には該当しないと考えられます。したがって、更正の請求は認められないと考えています。