夫婦間、親子間の金銭貸借については、金銭所費貸借契約書が作成されず、返済額、返済年数、金利等が曖昧なことが多い。

 これらが曖昧な場合、贈与したのではないかという問題が生じます。また、相続の際に、負債として債務控除の対象となるかも問題になります。

 今回の相続税申告では、父(89歳)が死亡し、配偶者から借りた5,000万円(金銭消費貸借契約書あり、返済実績なし)、長女から借りた4,000万円(金銭消費貸借契約書あり、父の自宅に抵当権を設定、返済実績なし)の計9,000万円を債務控除できるかがポイントになります。

親族間、親子間の金銭消費貸借を債務控除の対象とできますか
 平成25年3月4日の国税不服審判所の裁決が一つの参考になります。

 (裁決概要)
 医療法人の理事長が個人で所有する土地の上に、銀行から理事長個人が借入れを行い、病院を建築し、医療法人に貸し付けてました。理事長は医療法人から役員報酬と病院の賃貸料を受け取っていましたが、病院の経営が悪化し、役員報酬および賃貸料が減額となり、理事長の借入れ返済が困難になりました。そこで、理事長の妻、子が返済原資を理事長に貸付け、返済してきました。
 その後、理事長が死亡し、その相続税申告に当たり、理事長に貸付けた金銭を債務控除の対象として申告したところ、税務署から債務控除の対象とならないとして更正され、争った事案です。
 理事長と配偶者、子の間では金銭消費貸借契約書は締結されておらず、また返済期間、利息等の取り決めもありません。

(税務署の主張)
 相続税の計算における債務控除は、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもののうち、その者の負担に属する部分の金額を控除した金額とされており、また、相続税第14条第1項は、前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限ると規定されています。したがって、下記の理由から、この債務は債務控除の対象となるものではありません。
(1)本件各金員に関する契約書等が作成された事実は認められない
(2)本件被相続人と相続人らとの間において、本件各金員の返済方法、返済期限及び利息を取り決めた事実は認められない
(3)本件各金員については、10年以上もの間、本件被相続人が相続人らに返済をした事実がなかったと推認される
(4)上記(1)(3)のとおり、契約書等の作成並びに返済方法、返済期限及び利息の取決めがされず、10年以上もの間、返済の事実がなかったと推認されることから、履行が確実な債務とは認められない
 以上により、本件債務は債務控除の対象とはならない。

(国政不服審判所の判断)
イ 本件各借入金債務の存否について
 本件各金員の支出に関して、金銭消費貸借契約証書等の書類の作成はなく、また、返済方法、返済期限及び利息等の明示的な取決めは行われていない上、本件各入金日から本件相続開始日までの間、本件被相続人が相続人らに対して本件各金員に係る返済をした事実はなく、相続人らが本件被相続人に対してその返済を催促した様子もうかがわれないことからすれば、本件各金員の支出が返還を要しないもの、すなわち相続人らから本件被相続人に対する贈与であった可能性を否定できないことはない。しかしながら、他の事実関係を総合的に判断して、相続人らから被相続人に対する本件各金員の支出が本件被相続人に対する本件各金員の贈与であったとみるのは困難であり、本件各金員は、相続人らが答述するとおり、相続人らから本件被相続人に貸し付けられたものであると認めるのが相当である。
 また、本件各金員の授受が親子夫婦間で行われたものであり、その方法も口座振替等によっていて資金移動の経過が明確にされていることや、本件被相続人の当時の年齢に照らして将来遠くない時期に到来するであろう相続開始時に本件各金員が最終的に清算されるものであることなどからすれば、本件各金員の授受について金銭消費貸借契約証書等の書類が作成されず、本件各金員の返済方法、返済期限及び利息等について明示的な取決めがされなかったとしても、不自然ではない。

ロ 本件各借入金債務の履行の確実性について
 本件各借入金債務は履行が確実な債務か否かであるが、
(イ)本件各金員は、H病院の医業収入が減少したことから、本件被相続人の銀行借入金の返済の負担を軽減するために、本件被相続人に貸し付けたものであり、本件各金員に係る貸主と借主が相続人と被相続人の関係にあること、また、本件被相続人は本件各入金日当時7X歳であったことからすると、本件各金員の返済については、本件被相続人と相続人らの間において、H病院の業績の好転を待って返済するものとし、最終的には、本件被相続人の死亡時に相続人らが本件各借入金債務を相続することにより清算する旨の黙示の合意が成立していたものと認めるのが相当である。
(ロ)そうであるところ、本件各入金日後もH病院の業績が好転することはなかったため、本件被相続人が死亡するまで本件各金員が返済されることはなかったが、本件相続開始時において本件被相続人には積極財産も存在し、相続人らは、遺産分割協議により、本件被相続人の相続財産(積極)を相続するとともに、本件各借入金債務を相続することによりこれを清算しているのであるから、本件相続開始時において、本件各借入金債務を返済(履行)することは十分可能であり、本件各借入金債務は、履行が確実な債務であったと認めるのが相当である。
 また、本件相続開始日において、相続人らが本件各借入金債務に対応する債権を放棄する合理的な理由はなく、放棄したとする証拠も認められない。さらに、以上認定説示したところによれば、本件各借入金債務に係る金銭消費貸借契約をH病院の業績の好転を停止条件とする金銭消費貸借契約であるとみることもできず、本件各借入金債務を自然債務であると解する余地もない。
 以上のとおり、本件各借入金債務は、本件相続開始日において、履行が確実な債務であったと認めるのが相当である。
ハ 結論
 以上のとおり、本件各借入金債務は、本件相続開始日において現に存在し、かつ、履行も確実であったと認められることから、債務控除すべき債務に該当する。

 このように、夫婦間、親族間の金銭消費貸借は、契約書がなく、返済期間、返済額、金利等の取り決めがなく、また返済実績もないことが多く、税務署としては債務控除の対象となる債務としては認めたくない傾向にあります。

 逆に言えば、債務として認めるさせには、金銭消費貸借契約書を作成し、返済期間、返済額等を取り決め、契約に基づき返済している実績をつくることです。
 
 契約書、返済実績がなくても裁決例のように債務控除の対象となる債務として認められることがありますが、税務署との争いの原因となります。