遺留分放棄による相続対策(相続時精算課税制度の新たな活用例)

相続の遺産分割では遺留分がしばしば問題となります。先日も亡くなった被相続人の遺言書では長男に全財産を相続させる旨の内容になっていました。長男は親の介護の面倒を見てきて、財産をもらうことを当然に思っていますが、次男は何にも財産がもらえないから納得しません。次男が主張するのは遺留分です。相続人が兄弟2人のため、次男の遺留分は4分の1です。

相続に関わって思うことは、「遺言書は最強ではない」ということです。先例のように全財産を長男に相続させるという遺言書を残しても、次男が遺留分を主張し、遺留分減殺請求されてしまうと、長男は必ず負けです。このように遺言書を残したから相続でもめるはずはないという考えは誤りで、遺留分を侵害しているとやはり争いの原因となります。

そこで活用したいのが生前での遺留分放棄です。生前で相続放棄をさせることはできませんが、遺留分の放棄は可能です。生前での遺留分放棄は、遺留分権利者が被相続人に対して意思表示することによりなされますが、これには家庭裁判所の許可が必要です。遺留分の放棄を無限定に認めると、親の権威で相続人の自由意思を無理におさえるおそれがあるため、家庭裁判所は許可する下記の基準をもうけて、遺留分放棄が相当かどうかを判断しています。ちなみに、相続開始後の遺留分放棄は自由ですので、家庭裁判所の許可は必要ではありません。遺留分放棄をしても、相続の放棄をしたことにはなりません。

①遺留分放棄が本人の自由意思にもとづくものであるかどうか
②遺留分放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか
③代償性があるかどうか(特別受益分があるか、放棄と引き換えに現金をもらうなどの代償があるかなど)

ここでポイントになるのが③の代償性があるかどうかです。つまり、遺留分を放棄する見返りに生前贈与である程度の財産をもらっているなどの状況が必要だということです。

生前での遺留分放棄をする場合に、ある程度の財産を生前贈与する必要があると思いますが、そのときの贈与税課税はどのように対応すればいいでしょうか。
相続争いに発展する事例の多いのが、先妻の子が相続人に入ってくる場合です。その場合、先妻の子に対して遺留分放棄と同時に生前贈与を実行することで将来の相続争いを未然に防ぎます。

具体的には、停止条件付贈与契約(遺留分放棄があった場合に贈与するという内容)にします。

また、生前贈与に対する贈与税も相当な額になると予想されるため、「相続時精算課税制度」を選択し、2,500万円特別控除の範囲内であれば贈与税ゼロにします。

なお、留意すべきことは、遺留分の放棄が行われていても遺言書が残されていないと、遺留分の放棄は相続の放棄ではないため、遺留分の放棄をした者も含めて遺産分割協議が必要となります。必ず、遺言書を作成しておく必要があります。また、遺言執行者も指定しておき、遺言の内容を確実に履行されるようにします。

(注)遺留分放棄をした者が先に死亡した場合の代襲相続
遺留分放棄をした子が父よりも先に死亡した場合、孫が代襲相続人になります。この場合、父が遺留分放棄した子には一切の財産を相続させない旨の遺言書を残していたとき、孫は遺留分減殺請求ができるかが問題となります。代襲相続人は、被代襲者(子)の有した権利のみを取得することができるにすぎないため、被代襲者が遺留分放棄をしている場合、それを引き継ぐ孫には遺留分はなく、減殺請求はできません。